心臓核医学・画像診断グループ

心臓核医学・画像診断グループについて

画像診断グループでは、CT・MRI・核医学を用いた循環器領域の⾮侵襲的検査を行っています。近年の急速な技術進歩による診断精度向上や被ばく低減により、患者さんにとって⾝体的負担の少ない⾮侵襲的検査の需要はますます増加しています。

⼼臓CT

当院では、最新鋭の二管球CTであるSOMATOM Definition Force(Siemens社)を導入しております。このCT装置は66 msecと最速の時間分解能(シャッター速度)を有し、高心拍や不整脈症例においても低被ばくで良好な画像が得ることができます。心拍が安定している症例では、一心拍で心臓全体を撮影可能な“Turbo Flash Spiral”を用いることにより、1 mSv以下での冠動脈の撮影が可能になっています(図1)。当科では冠動脈CT検査の約60%にこの撮影モードを適応し、冠動脈CT検査の平均被ばく量は約2 mSvとなっております。一般的に胸部単純CTの被ばく量は約7 mSvとされており、当院の冠動脈CTによる被ばくは、世界的に見ても非常に低いレベルを実現しています。冠動脈撮影以外には、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)や不整脈に対するカテーテルアブレーション治療の際のガイドとしても用いられており、 循環器診療には欠かせない検査となっています。
冠動脈CTは冠動脈狭窄だけでなく、非侵襲的にプラークや冠動脈周囲脂肪の評価もできることが大きな利点で、冠動脈疾患の予後や進展の予測や治療効果判定に有効であることが報告されています。当科では、多くの一流誌の論文の解析に使用されている半自動冠動脈プラーク定量ソフトウェア(Autoplaque)を国内初導入し(図2)、冠動脈プラークに関する様々な臨床研究を行っています。

⼼臓MRI

⼼臓MRIは、心機能や形態の評価、心筋性状、心筋虚血、血流評価など様々なことが、放射線被ばくを伴うことなく評価できる非常に有用な検査です。シネMRIによる心機能評価や遅延造影による心筋バイアビリティ評価は、侵襲的評価法も含めたあらゆる検査の中で最も精度や再現性が高いとされ、ゴールドスタンダードとして用いられています(図3)。MRIは虚血性心疾患、心筋症を中心に、弁膜症や不整脈疾患などあらゆる心疾患の評価に用いられ、循環器診療を行う上で欠かせない存在です。
負荷パーフュージョンMRIは、心筋虚血を評価する方法ですが、古くから行われている核医学検査の弱点であった多枝病変での診断能低下(balanced ischemia)がなく(図4)、非侵襲的検査の中で最も高い診断能を有します。冠動脈血行再建の適応の判定法として、カテーテルを用いた侵襲的評価法であるFFRに対し非劣勢であることが、2019年のN Engl J Medに報告されました。負荷心臓MRIは専門的知識や経験を必要とするため国内でも施行できる施設が限られていますが、当科では負荷パーフュージョンMRIと前述の低被ばく冠動脈CTとの組み合わせや使い分けにより、より低侵襲で精度の高い診療を行っています。
非造影T1強調画像MRIで描出される高信号プラークは、血管内イメージングでの高リスクプラークと関連し、予後予測や治療効果判定に有効であると報告されています。従来法は、撮影に時間を要することや位置参照のための冠動脈参照画像との位置ずれなどの問題があり、広く普及するには至っていませんでした。当科ではCedars-Sinai Medical Centerと提携し、従来法の問題点を克服した新しい高速撮影法のCATCH(Coronary atherosclerosis T1W characterization with integrated anatomical reference)を国内で先駆けて導入し、臨床研究を行っています。CATCH法は造影剤を用いることなく高リスクプラークの評価ができ、完全無侵襲の評価法として臨床研究だけでなく日常診療においても活用できることが期待されています。

心臓核医学検査

心臓核医学検査は、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患を対象とした負荷心筋血流シンチグラフィー、心筋代謝異常の精査としてBMIPPシンチグラフィー、交感神経異常の精査としてMIBGシンチグラフィー、心アミロイドーシスの診断として99mTc-pyrophosphate(99mTc-PYP:ピロリン酸)シンチグラフィーが TTR アミロイドーシスの診断に役立っています。負荷心筋血流シンチグラフィーは、2018年度で年間607件(運動負荷322件、薬物負荷285件)と関東でも有数の実績があり、胸痛を主訴に受診された患者さんのスクリーニングや、虚血性心疾患がある場合の経皮的冠動脈形成術の治療方針決定や治療後の心筋viability評価など、幅広く活用されております(図6)。
研究テーマとして、再灌流された心筋梗塞症例において心筋梗塞・心筋血流Dualシンチグラムを用いた心筋改善の予後予測や、心房細動で心不全を来した症例のMIBGシンチグラムを用いた交感神経機能との関係、不整脈起源と交感神経異常との関係など、多岐にわたっております。

図1 低被ばく冠動脈CTの一例

Turbo Flash Spiralを用い、0.8 mSvで撮影。左前下行枝近位部に非石灰化プラークを伴う高度狭窄が認められた(矢印)、冠動脈造影では同部位に高度狭窄が確認された(矢印)。

図 2半自動冠動脈プラーク定量ソフトウェアを用いた冠動脈CTの3Dプラーク解析

血管内超音波の脂質性プラーク(矢印)に一致して、CTで低吸収プラーク(茶:<30 HU)を認める。
赤:冠動脈プラーク、茶:低吸収プラーク(<30 HU)
Matsumoto H, et al. Radiology: Cardiothoracic Imaging 2019より改変

図3 心筋梗塞のMRIによるバイアビリティ評価

症例1: 心内膜下梗塞
症例2: 貫璧性梗塞
遅延造影
シネ

下壁心筋梗塞2症例の遅延造影とシネMRI。症例1では、遅延造影の深達度は心筋の<50%で心内膜下梗塞と診断された。血行再建後のシネMRIでは、下壁の壁運動は軽度低下を認めるのみである。症例2では、心筋のほぼ全層に遅延造影が認められ、貫璧性梗塞と診断された。血行再建後慢性期のシネMRIでは壁運動改善はほとんど認められなかった。

図4 冠動脈三枝病変のATP負荷パーフュージョンMRI

ATP負荷では、左室内膜下の全周性に心内膜下での信号上昇の遅延を認めるが、安静時には改善している。冠動脈造影では三枝病変と、冠血流予備量比の有意な低下が確認された。

図5 CATCH MRIによる高信号プラークの一例


右冠動脈近位部に高信号プラーク(矢印)を認める(プラーク対心筋信号強度比=2.1)。血管内超音波では同部位に脂質性プラークが確認された。

図6 アデノシン負荷99mTc-tetrofosminシンチによる心筋虚血診断の一例

アデノシン負荷像において、前壁から中隔にかけての血流欠損と安静時の再分布が認められる。冠動脈造影で左前下行枝に高度狭窄が確認された。