心室期外収縮・心室頻拍・心室細動アブレーションについて

血管内穿刺

 両方の鼠径部(両方の股)、左または右側の鎖骨下静脈(左肩)の静脈にシースというカテーテルを入れるための管を複数挿入します。片方の鼠径部から動脈を穿刺し、血圧を測定し、左室の治療をするためのカテーテルを挿入します。左心室へはこの動脈から左室に入れる方法(経大動脈アプローチ)および右心房から心房中隔の卵円孔(生理的にもともと薄い場所)を穿刺し、左房を経由し左室にカテーテルを入れる(経中隔アプローチ)を行います。

1) 心室期外収縮(VPC)

 器質的心疾患(心筋梗塞などの病気が心臓にある場合)ある場合とない場合があります。
器質的心疾患がある場合は心室頻拍(VT)の項を参考にしてください。
器質的心疾患がない場合は自覚症状が強い場合、心機能が低下する場合、運動負荷試験で心室頻拍、心室細動に移行してしまう場合が適応です。
通常のカテーテルを留置しながら、3Dマッピングシステム(Ensite array, Ensite Navx , CARTO3 )も併用します。右室が起源と考えられる場合でも、左室から、左室が起源と思われる場合でも右室から治療が必要な場合が度々あります。
VPCの場合、5千から1万回前後/日以上ないとアブレーションできません。不整脈は目で見えるものではないので、ある程度の数が検査中に出ていなければ治療できません。患者さんによっては、通常2万回/日以上のVPCを認めるのに、検査時に全くVPCが出なくなる場合があります。VPCが頻回に出現している場合の成功率は80-90%前後ですが、VPCが検査中に出現しない場合は、50%以下になってしまします。治療対象になっているVPCの治療が成功した後に、マスクされていた違うタイプのVPCが出現し、場合により、再アブレーションが必要になる場合があります。冠動脈(心臓を栄養する血管)の入口部にVPCの起源がある場合、心外膜(心臓の外側)に起源がある場合には、アブレーションできない場合があります。
施行時間は病状にもよりますが、3時間から5時間程度です。

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2) 心室頻拍(VT)

 VTは病的心筋や病的な刺激伝導系(電気が流れるところ)の緩徐伝導部位(正常の部位と異なる場所で、かなり遅く電気が流れる場所)が存在し、ここを中心に異常な電気な流れが続く(リエントリー)状態で、血圧が低下し、心停止となる状態です。そのため、薬物治療およびカテーテル治療が必要となります。3Dマッピングシステムを併用し、通常脈中に心室内の電気的情報を集め、その後、VTをカテーテル刺激により誘発し、再度、心室内の電気的情報を集め、緩徐伝導部位などを特定し、アブレーションにより治療します。再発を繰り返す場合、VTの心電図から心外膜(心臓の外側)が起源であると推測された場合胸骨下縁(溝内の周囲)から穿刺し、心外膜にカテーテルを挿入し治療することもあります。
VTは器質的心疾患を合併しているケースが多く、通常、カテーテルアブレーションが成功しても再発を繰り返す場合が多いので、突然死の予防のため、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはほぼ全例で行います。
施行時間は病状にもよりますが、3時間から6時間程度です。

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3) 心室細動(VF)

 心室細動は心室が痙攣している状態で、血圧が保てず、至急電気的除細動(電気ショック)をしなければ、死亡してしまう不整脈です。
心室細動に対しては、通常、薬物および植え込み型除細動器(ICD)の植え込み治療が基本です。
VPCからVFに頻回に移行する場合は、初めに出現するVPCをアブレーションで治療します。VPCの治療に関しては1)を参照してください。
施行時間は病状にもよりますが、3時間から6時間程度です。

心室細動

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合併症

  • 心タンポナーデ(心臓の外に血がもれ出る)→心臓の外から管をいれ、血液を抜きます。必要時輸血を行い、それでも出血する場合、心臓外科に開胸し、止血してもらいます。
  • 血圧低下(心、血管からの出血のため)、ショック、心停止→集中治療、輸血、手術
  • 房室ブロック(心房と心室の電気のながれが途絶える)→ペースメーカーの植え込み
  • 脳梗塞(左室を治療した場合)→集中治療
  • 心筋梗塞→集中治療、カテーテル治療
  • 四肢の血栓閉塞→集中治療、カテーテル治療
  • 血気胸(鎖骨下静脈穿刺時(肩から管をいれる)に肺を傷つけてしまう。)→肺を拡張するための、管を入れます。それでも治らない場合、外科処置が必要になります。肺の出血がある場合、輸血も必要となることがあります。
  • 穿刺部の血腫、出血→多くの場合経過観察(1か月程度できれいに治ることが多い。)。血腫が増大する場合は手術。
  • 動静脈瘻(動脈と静脈が交通する)→多くの場合経過観察。手術にて完治。
  • 感染→抗生剤の投与。
  • 腎機能が悪い場合:造影剤を使った場合、腎機能悪化し、透析導入となる場合があります。

心外膜からのアブレーションの場合

  • 冠動脈損傷→カテーテル治療、冠動脈バイパス手術
  • 横隔神経麻痺→経過観察
  • 肝および腹部損傷(胸部からの穿刺時に損傷する可能性がいいのか)→輸血、手術
  • 侵襲のある治療なので、上記以外でも予期しないことがおこることがあります。